- これでわかった!音圧の測定原理! -

超音波洗浄機を使用するにあたり、その原理や基礎を正しく理解するこで、
最大の洗浄効果や飛躍的な洗浄効率が得られる様になります。

このページでは、超音波洗浄の原理と基礎、
そしてそれを管理する超音波音圧計の有効性をお伝え致します。
写真で解説!キャビテーションの生波形とその姿!

①超音波洗浄の”基”は気泡
水中には様々な大きさの気泡(酸素)が含まれており、この気泡が超音波洗浄の洗浄効果の基となります。

液中にある気泡の量を溶存酸素量といいます。そして、これ以上気泡が増えない時の量を飽和溶存酸素量と呼び、その場合には、水1ℓあたり7~9mgの気泡が液中に溶け込んでいます。
たとえば魚類などは、この溶存酸素をエラ呼吸により吸収します。しかし、溶存酸素量が1ℓあたり2mg以下になると酸欠状態になって死んでしまいます。
超音波洗浄にも最適な溶存酸素量があり、飽和溶存酸素量時は洗浄力が弱くなり、酸素量が1ℓあたり0.5~6.5mgの時に洗浄力は強くなります。※理由は後述。


※水1ℓあたりの溶存酸素量(mg)は、(mg/ℓ)と表します。また(ppm)と表す場合もあります。
水中の気泡イメージ
図1.水中の気泡イメージ。
水中には大小様々な気泡が漂っています。

②水中での超音波の作用
水中に超音波を照射すると、水中の気泡群が「膨張(真空気泡)→収縮→破裂(圧壊)→衝撃波発生→洗浄効果」のプロセスを繰り返します。超音波の作用で気泡が連続して激しく破裂し、その衝撃波で汚れを落とすのです。この一連の現象をキャビテーションと呼びます。
※周波数は振動数を表し、40kHzの超音波なら1秒間に4万回振動します。振動子の振動面の振動振幅(最大値~最小値)は、1μm以下の微少な振動ですが、猛烈に高速振動する為、大きなエネルギー(圧力変動)が水中に生じます。この状態で音圧最大位置に気泡があると、激しく膨張・収縮して破裂(圧壊現象)します。
超音波の影響を受けた気泡は50倍ほどに膨張し、次に1/100以下まで収縮します。この激しい変化によって気泡内部は千気圧・千℃の高圧高温状態となり破裂します(破裂というより、酸素が高温で燃焼して爆発する様なイメージ)。
※全ての気泡が破裂するのではなく、超音波の周波数(Hz)によって決まる直径(共振気泡径)以下の気泡のみが破裂します。大きな気泡は圧壊現象を起さず、衝撃波を吸収してしまい洗浄力を弱めるのです。これを防ぐためには洗浄水を脱気する方法があり、大きな気泡が除去して洗浄力を高める事ができます
水中での超音波作用
図2.1つの気泡に着目した図。この「膨張・収縮・破裂」を
1秒間に4万回(40kHzの場合)繰り返します。

③水中での超音波振動の伝わり方
超音波振動子(超音波を発生させ振動する素子)を、洗浄槽の底に設置して振動させると、その振動が水中に伝わり、垂直方向(水面)に向かって進みます。
水面にまで達した振動は、水面で全反射して戻ってきます。これにより行く波(入射波)と帰る波(反射波)が重なりあって、音圧の強い所と弱い所が生じます。これを定在波(ていざいは)と呼びます。

※超音波ビューアを使うと、定在波が可視化できます。
 超音波ビューア紹介ページ
音波の伝わり方
図3.定在波の音圧分布。音圧大の場所と、音圧小の場所が交互に現れます。

④洗浄効果の最大位置
超音波により発生する水中の音圧には、上記のように強弱の分布があり、音圧の最大位置では洗浄効果は大きく、音圧が低い位置では洗浄効果が小さくなります。
音圧の最大位置では、キャビテーション現象により気泡が破裂して衝撃波が生じます。この超音波を照射している水中に、アルミ箔を浸けて30~60秒動かさないでいると、図4のように音圧の最大の位置に穴が開きます。これは、気泡の破裂により発生した衝撃波が、アルミ箔を削った現象です。
※このように部分的に穴が開くということは、洗浄効果の大きい場所と、洗浄効果の小さい場所があることを示しています。この洗浄ムラを解消するためには、洗浄物の上下運動(40~60mm・4~5秒)が必用となります。
洗浄効果の最大位置
図4.音圧分布とアルミ箔の破壊現象。アルミ箔に穴が開くほど強力です。

-  音圧の測定  -

⑤音圧の測定
一般的に洗浄効果は音圧が高いほど良いとされています。ここ言う音圧とは水中の圧力のことで、この音圧を測定することにより洗浄効果の目安とすることができます。また超音波振動子の寿命が尽きて弱くなったり、故障して超音波が弱くなった場合にも、音圧を測る事で状態を確認する事ができます。
通常、水中の超音波音圧を測るには、ハイドロフォンと呼ばれるセンサーを使用します。音圧の単位はdb(デシベル)であり、「音圧値60db」と表現できるのが絶対値音圧です。このハイドロフォンは、絶対値を測る事が可能です。
しかし、超音波を照射した水中では、キャビテーション現象で多数の真空の気泡が圧壊を繰り返している為、絶対値音圧が測定できません。なぜなら真空の気泡が邪魔をして、水中の圧力を正確に測れなくなるからです。
※ちなみに、筆者が外国製の何十万円もするハイドロホンを購入して、超音波の水中音圧の測定を試みましたが、発生したキャビテーションがマイクロホンの先端にまとわりつき、高価なハイドロホンがあっと言う間に壊れてしまいました。
キャビテーション現象と絶対値測定
図5.キャビテーション状況下でのハイドロフォン使用イメージ。圧壊現象が邪魔して絶対値音圧の測定ができません。

⑥キャビテーション状況下での音圧測定。
上記のようにキャビテーション状況下では、絶対音圧を測ることは困難といえます。そこでステンレスの振動伝達棒に圧電素子(PZT)を接着して、液中のキャビテーション衝撃波による振動を拾って電圧表示して相対値音圧を測る方法が考え出されました。
圧電素子(PZT)はジルコンチタン酸鉛と呼ばれるセラミックの焼物です、百円ライターや、ガスレンジなどに用いられ、カチッと内臓ハンマーで衝撃を与えると火花が発生してガスに火を付けたりすることに使われます。つまり圧電素子に振動を与えると、電気が発生するということなのです。
この性質を利用して、超音波による衝撃波の振動を伝え、圧電素子に電圧を発生させます。その電圧を計測することにより、相対値音圧を求めることができます。
※ちなみに、超音波を発生する素子を振動子といますが、このPZTが振動子として使われています。振動子は英語でTRANSDUCERと訳しますが、TRANSDUCERを日本語訳すると、変換機となります。電気を振動に変換するからです。
音圧測定の原理図6.相対値音圧の測定方法。ステンレス(SUS)棒と圧電素子(PZT)から構成されています。超音波の衝撃波による振動が、SUS棒に伝わり、その振動がPZTに伝達されて電圧に変換されます。PZTは+と-の電極があり、電極間に電圧が発生します。その電圧を信号処理して数字や針で表示します。

⑦電圧の強さは音圧に正比例する。
図7は、発信器(例1200W 40kHz)と投込振動子を用いて、出力(W)を変化させ、音圧を測定したグラフです。このグラフのように発信器の出力を上げると、音圧計の表示値も上がります。このグラフによって正比例の関係性があるとわかります。相対値音圧計は絶対値(db)の測定できませんが、キャビテーションの衝撃波に比例した電圧を測れる測定方法といえます。このことからも、相対値音圧計を超音波洗浄の管理ツールとして活用できることがわかります。
※この原理からキャビテーションメーターと呼称するメーカーもあります。メーカーにより、PZTの種類、大きさ、伝達棒など別サイズを使用してますので、表示される電圧値は必ずしも一致しません。しかし「キャビテーションに力に比例した電圧を表示する」という点で一致しています。
発信器出力と音圧計表示値の比較
図7.発信器の出力と音圧計表示値の比較。
正比例の関係性があるとわかります。

-  オタリ製超音波音圧計のすすめ  -

⑧相対音圧測定からわかること。
音圧測定から一例として次の事がわかります。
1.故障の有無
調子よく動いていた超音波洗浄機が、調子よい時期と比べて音圧が1/5になった。異常があり、故障の可能性があります。
2.点検
音圧計で定期点検することにより、超音波洗浄機の異常がわかります。完全に動かなくなってから、洗浄機を購入すると、納入時期のタイムラグが発生してしまいます。
3.洗浄篭の善し悪し
洗浄篭を使用することによって、どれだけの超音波が遮られているのかがわかります。洗浄篭の選定にも役立ちます。
4.水深の影響
音圧の分布を測定することにより、洗浄槽のどの部分が洗浄効果が高いががわかります。
5.音圧の変化
洗浄効果は洗浄液の溶存酸素が大きく関わっており、その大小で大きく変わります。DX2ならば24時間の音圧の変化が、リアルタイムなグラフで表せます。

⑨音圧計の表示電圧はなぜちらつく?
音圧は常に変化します。それは、キャビテーション環境での音圧が、野外の風と同様に一定ではないからです。オタリの音圧計は正確に音圧を測定しますので、音圧計が「ちらついて」いますが、それは槽内の音圧そのものが「ちらついている」からです。オタリの音圧計は「ちらつき」小さくするように1秒間に1024回測定して、平均値(移動平均)を表示しています。それでも多少は音圧表示が変化します。これは音圧の変化が大きいからです。
夏の風物詩「花火」を思い浮かべて下さい。花火大会のフィナーレでは、たくさんの花火が切れ目なく打ち上げられ、すばらしい光景を見ることが出来ます。超音波の発生した水中も同じ様なもので、キャビテーションの花火が連続して破裂しています。この時の音圧をマイクロフォン等で測定した場合、一定となるでしょうか? 耳に聞こえる音でも「バッバババババーンバババ-ン!」という様に一定の音ではなく、音が変化していることが容易に分ります。
キャビテーションの花火(イメージ)
図9.キャビテーションの花火(イメージ)


実際の様子は↓
写真で解説!キャビテーションの生波形とその姿!


音圧計の測定原理について、わかりやすく解説させていただきました。
音圧測定の重要さをご理解できたかと存じます。

この解説でも不明な点、またこういう事は出来ないのか?などございましたら、
お気軽にお問い合わせ下さい。

是非とも適切な音圧計をご使用になり、
洗浄力管理を徹底していただく事をお勧め致します。


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